アメリカにとって最大の激戦地となった硫黄島。
その硫黄島の摺鉢山(ホットロックス)の頂上に、今まさに星条旗を掲げようとする6人の海兵隊員。その様子をとった写真はピュリッツァー賞を受賞し、その海兵隊員達は英雄として祭り上げられます。
写真の中の一人である著者の父 ジョン・ブラッドリーは、帰国後、英雄として驕るではなく、むしろそのことは隠すかのようにひっそりと生活し、そしてその生涯を閉じました。
なぜ父は口をつぐんでいたのか、硫黄島で、帰国後に何を見て体験したのか疑問をもった作者が、6人の海兵隊員の生い立ち、硫黄島での闘い、そしてその後の生涯について調べ綴ったのがこの本です。
まず著者は6人の海兵隊員の生い立ち、そして彼らがどのようにして硫黄島の戦いに参加することになったのか、それぞれについて掘り下げていきます。
そして硫黄島の戦いの様子へ。
ほぼ全滅に近い日本軍に比べ、数多くの米軍生存者(それでも犠牲者は多かったのですが)に取材された内容は、米軍からの視点ではありますが、硫黄島の闘いの凄まじさ、悲惨さが伝わってきました。
この硫黄島へ上陸作戦を決行したのは、それまでアメリカの軍隊の中で曖昧な存在であった海兵隊。
もともと1798年に海軍の隊内警備及び狙撃用付属部隊として組織されたそうですが、やがて戦争で最も難しいとされる作戦行動の一つ、上陸作戦を担う軍隊として浮上してきます。
そのヒロイックな、マッチョなイメージが多くのアメリカの若者を引付け、志気の高い軍隊として鍛錬されていきますが、そんな彼らであっても想像を絶する戦いだったようです。しかしその硫黄島における海兵隊の戦いぶりが、現在の確固たる地位を築きあげたとは初めて知りました。
そんな悲惨な戦いとは、まったく正反対なのが政治。
戦争を遂行する上で必要な戦費を調達するためのキャンペーンとして、硫黄島で星条旗を掲げた英雄達を利用することを思いつきます。
悲惨な戦場と、祖国に英雄として凱旋すること。
天国と地獄ほどの違いがあります。しかし自分はたまたまそこに居合わせただけと思うブラッドリー。硫黄島で倒れていった戦友達のことを思うと、英雄として人々の前に出て行くのは複雑な思いであったことが次第に明らかになっていきます。
彼が息子である著者に昔語ったという言葉、「硫黄島のヒーローたちは、帰ってこなかった連中だ」その言葉にずっしりとした重みが感じられました。
最後に一つ、この本の時代のアメリカと現代のアメリカ、やっぱりアメリカという国は何も変っていないように感じました。
著 者 ジェイムズ ブラッドリー / ロン パワーズ
訳 者 島田 三蔵
ジャンル ノンフィクション
出版社 文藝春秋
文庫版 588ページ
価 格 1,000円
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