北極圏にあるスピッツベルゲン島。
そこには世界が滅びても、再びあらゆる植物を再生できるように、世界中の植物の種子が保管するスヴァールバル世界種子貯蔵庫があります。この本はそれを実現するために奔走したベント・スコウマンと彼の理念を追ったノンフィクションです。
と、邦題を元に考えるとそんな説明になりますが、本を呼んで改めて表紙を見直し、原題”The Viking in the wheat fileld”が記されていることに気づくと、やっぱり原題の方がしっくりくるし、ベント・スコウマンと彼の理想を追ったノンフィクションというのが正解ですね。スピッツゲルゲン島にある世界種子貯蔵庫の話はあくまで、彼の眼に見える分かりやすい功績の一つでしかないことに気づきます。
彼の目的は非常にシンプル。世界中から飢餓を無くすこと。
初めは品種改良によって収量の多い小麦を開発することから始まり、やがて次々と発生する病害虫に強い品種を生み出すこと実現していきます。
その過程で重要なのは、いろいろな特性を持ったあらゆる小麦の種類の種子を集めデータベース化しておくこと。たとえ今すぐ役に立たなくても、将来発生しうる新しい病害虫に対する適正をもつかもしれない。こう行った種子を保管しておくことで、将来の品種改良に役立てることができる。しかもその種子とデータベース(シードバンク:種子銀行)は世界中にオープンでなければならない。
それがベント・スコウマンの理念なのです。
この本ではその理念について、彼の生涯を追いながら分かりやすく解説していて、とても面白かったです。ココ数年読んだノンフィクションの中ではピカイチですね。
やはりスコウマンの理念・理想がビシッと一本筋が通っていることに加え、著者が彼がその理念を持つに至った過程、種の遺伝情報の特許論争、そしてその理念を支える人々、そして反対する人々の主張など、いろいろな要素をうまく纏め上げているのが素晴らしいです。
最後の解説にもありますが、ベント・スコウマンの所属したCIMMYT(国際トウモロコシ・コムギ改良センター)には彼ともう一人のシードバンカーが登場します。彼の名は田場佑俊、そう日本人です。
ベント・スコウマンはコムギグループの長として奔走し、田場佑俊はトウモロコシグループの長として、国際社会に種子貯蔵庫の有用性・必然性について訴えています。この二人は言わばCIMMYTの両輪。もちろんこの本はベント・スコウマンの本ですから、田場についての記載は少ないのですが、ちょっとどういう人なのか興味をもちました。ちょっと名前でググってみたのだけど、出てくるのはこの本についての記述ばかり。誰か彼を主人公にしたノンフィクションでも書いてくれないかなぁ...
最後に繰り返しになりますが、この本はおすすめですよ~
著 者:スーザン・ドウォーキン
訳 者:中里京子
出版社:文芸春秋
四六版:256ページ・
価 格:各 1,550円
ps.そうそうこの著者についても興味を持ったので、「ナチ将校の妻―あるユダヤ人女性:55年目の告白」も呼んでみたいと思います。
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