チベット高原を西から東へと流れ、やがてヒマラヤの山中、巨大な峡谷部に吸い込まれるツァンポー川は古代チベットの人々からも「謎の川」と言われてきました。
果たしてこの川はどこに流れこむのか、19世紀後半より幾度と無く探検家がその謎に挑みますが、険しいヒマラヤの山中が探検家を拒み続け、このツァンポー川はシャングリ・ラ伝説と相まって多くの探検家達を惹きつけてきました。やがて徐々にそのベールが剥がされていきますが、一部の区間、そう「空白の五マイル」が前人未到の地として残されます。
この区間にナイアガラに相当する大瀑布はあるのか、今なお探検家を惹いてやまない川となっています。
著者は早稲田大学探検部OB。
学生時代にこの「空白の五マイル」について知り、以来惹かれ続けてきた探検家の一人。この本は空白の五マイルについて、過去の探検家たちの挑戦、そして著者自身の挑戦について綴ったノンフィクションで、開高健ノンフィクション賞受賞作品です。
いや、面白かったです。
まだ地球上でこんな空白地帯が残っているなんて初めて知りました。本の中でも触れられていますが、今やグーグルマップを使えばその地の様子が手に取るようにわかる時代ですが、なにせ地球は広い。そんな場所もあるんですね。
ちなみにその空白地帯をグーグルマップで見るとこんな感じ。
険しい山、激しい水流がこんな写真からでも実感できます。
さぞかし現地は凄い状況なんでしょうね。確かに開発が進み、19世紀末とはくらべものにならない技術の進化した現在においては現地へのアプローチひとつとっても楽になったとは思います。
しかしながら、現代ならではの苦労もあります。
2回に渡って現地へ「空白の五マイル」に行った著者ですが、現地は中華人民共和国のチベット自治区。 そう、独立運動で、中国政府が外国人の立ち入りを激しく禁止しているエリアです。
苦労してガイドを探し、警官の目をかいくぐり、住民の通報に怯えながら、現地に入る著者。何がそこまで著者を惹きつけているのでしょうか?
ちょっと残念だなと思うのはこういう探検記の場合、地図と照らし合わせながら本文をよく読むことが多いのですが、ちょっとその地図がプアなこと。本文中に記述がある場所をもう少し、地図に(推定でもいいから)いれて欲しかったです。
空白の五マイル / 角幡 唯介
著 者:角幡 唯介
出版社:集英社
文庫版:296ページ
価 格:1,680円
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