終戦からの6年間、ケーキ(景気)時代とも呼ばれる、沖縄の人々が誰もがこぞって密貿易に関わっていた時代がありました。混乱の時代だからこそ、自分自身の器量で大金を掴むことができる。
そんな沖縄の人たち自身が煌めいていたウチナー世において、その中でもひときわ輝いていたのが夏子です。
戦後の沖縄ではお粗末な占領行政からあらゆる生活物資が不足していました。逆にあり余っているのが米軍が日本本土攻略を目論み陸揚げした軍需物資。沖縄の人たちは生活する為に米軍の軍需物資や壊れたトラック等のスクラップを掠め取り、台湾に持ち出し食料を持ち帰るという密貿易を始めます。
そもそも沖縄は東京よりも台湾が近いですし、台湾には多くの沖縄の人たちが移民していました。
となれば台湾と交易するのは簡単です。そう、国境さえなければ。
もちろん違法ですから米軍の取り締まりはありますし、今と違い天気予報もままならない時代ですから嵐に遭遇することもあります。でもそんな危険をすり抜ければ一航海でかなりの大金を手にすることができました。
そんな時代、独自の情報網と嗅覚それに度胸で沖縄の密貿易の女王とまで呼ばれたのがナツコ、この本の主人公です。
残念ながらちゃんとした記録がほとんど残っておらず、著者は調査にかなり手間取ったようですが、その時代を生きた人々にとってナツコは知らぬ人がいない程の有名人だったそうです。
しかも取材していく中で、悪口を言った人がいないという程の度量。
それは「密貿易は私腹を肥やす為にやっているのではない、沖縄の為にやっているんだ」という心意気、そして大金を稼いでもすぐ人に投資してしまいいくらも手元の残らないといったキップの良。だから身長150cmほどのナツコに侠気を感じ、大男達は黙々とはのナツコの指示に従っていたのでしょう。
一方でナツコの私生活はあまり幸せではなかったように見えます。夫との死別、義父との対立、なにより辛そうなのは、仕事故に娘二人と離ればなれになりがちだったこと。
そしてようやく腰を落ち着けて娘と暮らし始めた矢先に、癌を患ってしまいます...
光煌めく沖縄の輝いていた時代、その時代を流星のように駆け抜けたナツコ。
その生き様には惚れ惚れしてしまいました。
著 者 奥野 修司
ジャンル ノンフィクション
出版社 文藝春秋
四六版 405ページ
価 格 2,250円
コメント