夜、満開の桜をひとり見ると、昼間の明るい日差しの中で咲き誇る桜や、大勢で宴会をしながらふと見上げる桜とも違う美しさを感じます。薄暗い闇の中で、ぽっと浮かび上がる白い桜の花。凜として神々しく、人を寄せ付けない、ある種の怖さを感じる美しさです。
そんな時ふと思い出すのは、「桜の樹の下には死体が埋まっている」という話。あの満開の桜の美しさ、はかなさ、そして怖さについて、なるほどと思わせる説得力があります。
この話のもとになったのは、梶井基次郎の「桜の樹の下」。昭和初期の作家であり、若くして夭折した梶井の、病気療養中に伊豆で書いたといわれるこの作品には、有名なこのフレーズだけでなく、美しい桜の樹の下に埋まっていると想像される死体の描写など、充分すぎるくらいインパクトがあります。
「桜の樹の下」が収められている梶井唯一の著作集「檸檬」を、文庫本で読みましたが、そのほかの作品も「城のある町にて」や「橡の花」など若い時分の例えようのない不安感、なんとなく感じる閉塞感を見事に描いている気がします。
梶井基次郎の作品は死後50年経っているため著作権が切れており、青空文庫等でフリーで読む事ができます。「桜の樹の下」は比較的短い話ですので、ちょっとこちらで読んでみては如何ですか?
梶井 基次郎 著
ジャンル 小説
出版 集英社
247ページ
価格 380円
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