NHK教育テレビで放映されていた「ハーバード白熱教室」を知ってますか?ハーバード大学史上最多の履修生数を誇る超人気講座「Justice(正義)」。毎回1000人を超える学生を集める人気ぶりに、講義は非公開という原則を覆して一般公開したというもので、それを放送したものが「ハーバード白熱教室」です。そしてその講義を書籍化したものがこの本です。
講義と言っても一方的に聞くだけではありません。本と言ってもただ読むだけではありません。
例えば、 「一人を殺せば5人の命を救うことができる状況になった時、あなたはその一人を殺すべきか?」。このような問いに対し、あなたはどう考えるか?なぜそのような結論に至ったのか、それがこの講義であり、この本なのです。
哲学というととかく難しいイメージしかありません。
そしてこの本に出てくる哲学者の名前、昔中学だか高校だかの授業で聴いた名前がでてきます。ベンサム、カントなどなど。私なぞ、かろうじてベンサムの功利主義という名前だけがでてきましたが、それ以外はさっぱり(苦笑)
最近、どこぞの内閣が「最小不幸社会」という言葉をだしましたが、そもそもは最大多数の最大幸福というベンサムの功利主義から来た言葉でしょう。
でもこの本では、先述の一人の命と五人の命を始めとしてそれら哲学者の考え方を現代社会における具体例に落とし込んでいるので、とてもわかりやすく、だからこそ考えさせられるのです。
徴兵制と志願兵制、さらには傭兵というのはどういうことなのか?志願兵というのは兵役に服さなかった人たちが志願兵をお金で買ったことにならないのだろうか?それならば傭兵と変わらないのでは?
お金を貰って子供を産むという代理母は単なる商行為なのだろうか?需要と供給とで成り立つ自由市場経済には倫理上介入する余地があるのだろうか?
ここまで読みながら考えさせられる本というのはなかなかありません。しかもそれらの問いに対し、誰もが納得できる明確な正解がありません。立場が代わり考え方が変わると見事に正解(正義)が入れ替わるのです。
今、新聞、テレビで取り上げられている話題、何を基準に善悪を判断しているのか、そのまま受けいるのではなく、自分自身で考えるその力を養われるような本でした。しばらくいろいろ考えさせられそうです。
著 者 マイケル・サンドル
訳 者 鬼澤 忍
出版社 早川書房
四六版 384ページ
価 格 2,415円
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