地下鉄サリン事件と聞いてまっさきに思い出す光景は、ヘリコプターから映し出される築地本願寺前の築地駅の様子。いつもは車が走っている道に横たわる人々に、東京消防庁のスーパーアンビュランスが強烈な印象として記憶に残っています。
たくさんの被害者が出たあの事件で、スーパーアンビュランスを始めとする救急車はフル稼働だったと思いますが、サリン事件を扱った村上春樹の著作「アンダーグラウンド」で、大多数の被害者は救急車以外の手段で病院に向かったことを知りました。
この本は、その築地駅近くにあり被害者が集中した聖路加国際病院の救急医療センターで、事件に立ち向かった救急医の著作です。
前半は当日の様子をドキュメンタリータッチに、後半は反省を踏まえた救急医療への提言が、あくまで緊急事態に医療としてどう対応すべきかという立場で事件を振り返り、そして得た教訓が書かれています。
私はどちらかというと前半の部分に興味があって図書館から借りてきました。
その前半部分は、時系列に淡々と書かれているので、さっと読むと大したことないようにも思えますが、その行間の向こうにその大変さが滲みでているように感じました。たぶん体験したことは、こんな文章で書ききれない大変なことだったんだろうなと容易に想像できます。
でも正直思ったのは、日本のこういうノンフィクションって、どうしてプロのライターが書いたものが少ないのでしょう。確かに実際の経験した人が書くこととしてそれはそれで迫力ありますが、プロのライターが書いたらもっと読み応えのあるものになったろうなという気がします。
もっとも後半部分はサリン事件の反省や世界の救急医療関係者との交流から得た、日本の救急医療に対する提言が書かれている論文調なので、他人に書いてもらうというのは厳しいのかもしれませんが...
その後半部分はまた別の意味で、非常に興味深かったですね。
この本の出版が1999年とちょっと古いこともあり、大分改善されてきている点もあるでしょうが、欧米に比べると、まだまだ遅れているのことは否めない事実のようです。
例えばドクターヘリ。
出版当時と比べ、ドクターヘリの導入されはじめているものの、その数、運用方法等改善すべき点はいろいろあるみたいですね。少しずつでも、確実に日本の救急医療が良くなって行くことを願わずにはいられません。
著 者 奥村 徹
ジャンル ノンフィクション
出版社 河出書房新社
四六版 221ページ
価 格 1,680円
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