酒鬼薔薇事件から遡ること28年前、川崎の高校で同級生による殺人事件。その凄惨さは酒鬼薔薇事件を彷彿させる、いや順序から言うとそれは逆なのでしょう。
その殺人事件が、被害者家族にとってそれまでの幸せな生活に激変をもたらしたことは想像に難くありません。この本はそして30年あまりの月日が経った今、残された被害者家族は立ち直ることができたのか、そして事件の加害者はどうしているのかをルポルタージュしたノンフィクションです。
そういった概要だけ聞くと、正直興味本位な下世話な感じがしますが、決してそんなことはありません。
事件後の二年もの間心を病み自殺を図ったり、睡眠剤で寝たきりとなった為、記憶がほとんど無い母親。暗い雰囲気の家に帰りたくはないが家庭が崩壊してしまうことを恐れ、まっすぐ家に帰る娘。
鬼籍に入った父親についてはどう考えていたのか聞くすべもありませんが、ただ一つ事件について語ること触れることは避け、かといって事件を忘れさることもできない家庭の様子が綴られていきます。
30年以上経つのにもかかわらず、被害者家族だけでなく同級生達にも暗い影を落としている事件。その事件を引き落とした加害者はどうしているのか追うと、驚きの事実が判明します。
慰謝料を払わず、一度も謝罪をしていない加害者は、なんとその後弁護士となり「更正」しているというのです。それを聞いた被害者の憤り、やるせなさは察するにあまりあるものばあります。
最近、日本では犯罪者の更生に力は入れているが被害者のケアがなされていないという記事を、時折見かけます。そういった新聞記事を読んだだけでは、そんなものなのかな?という風にしか感じませんでしたが、この本を読んで被害者家族の悲惨さを実感しました。
著 者 奥野 修司
ジャンル ノンフィクション
出版社 文芸春秋
四六版 271ページ
価 格 1,650円
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