チベットと聞いて思い浮かべることはなんでしょう?
ヒマラヤの山々? ユーラシア大陸の秘境? そして転生を繰り返すとされるダライ・ラマが有名ですね。
だいぶ前になりますが、ブラッド・ピッド主演でセブン・イヤーズ・イン・チベットという映画がありました。あの映画を通してチベットという国の様子を感じとった人はかなり多いのではないでしょうか。(あの映画は史実を元にした映画ですが、奇しくもつい先日ブラット・ピッド演じたハインリッヒ・ハラーさんが亡くなりました)
チベット仏教では徳の高い、ラマ(高僧)は輪廻転生を繰り返すとされています。
それはハラーさんが家庭教師をしたダライ・ラマに限りません。この本で取り上げられているパンチェン・ラマもそのうちの一人です。
ローマ法王の場合は枢機卿による選挙で選ばれますが、チベット仏教におけるラマはあくまで”生まれ変わり”なのでまったく異なります。ラマの場合、まず先代の遺言、神託による予言などにより、何人かの候補の少年が密かに選びだされます。
さらにそれらの少年は、生まれた時の様子や先代の遺品を選び出せるかなど数々の試験によって、一人に絞り込まれ、最終的に別のラマによって認定されます。
そして選び出された少年は僧院の中で英才教育を施され、一人前のラマとなっていくのです。
ここに大きな二つのポイントがあります。
どうやって選別・認定するのか?そしてどのような教育をなされるのか?です。
ここを誤ると、チベットの指導者となるラマが誤った方向へ行く可能性があるからです。
チベットについては多くは知らなくとも、チベットは中国の支配下にあり、それらに抗議するダライ・ラマを筆頭とする人々は、インドに亡命政府を樹立していることをご存知の方は多いと思います。
そんな中、ダライ・ラマに次ぐ高僧とされるパンチェン・ラマが1989年に亡くなりました。
やがて転生者を探し出す作業が始まるのですが、その中で中国政府とチベット亡命政府の間で駆け引きが始まります。
あくまでチベット仏教の伝統を守り、転生者を探し出し教育しようとするダライ・ラマ。
自分たちの都合のいい転生者を見つけ自分達の配下で教育しようとする中国政府。
この本ではこの息詰まる展開を、チベットの歴史を踏まえながら綴ったノンフィクションです。
ちょっと文章的に、読みづらい部分はあるもののチベット仏教の要ともいえる転生制度、チベットと中国の駆け引き(現代だけでなく13世紀ころから)について興味深く読めました。
そしていわゆるチベット問題の背景や現状について、いかにうわべだけしか知らなかったかつくづく実感しました。
転生制度がどのようなものか、歴史、チベット仏教など、チベットに興味がある人にはお勧めです。
著 者 イザベル・ヒルトン
訳 者 三浦 順子
ジャンル ノンフィクション
出版社 世界文化社
四六版 430ページ
価 格 2,310円
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